こんにちは。GinYaMEDIAの徳留(@dome8686)です。
カナダのクラフトジンと聞いて、どんなイメージを持ちますか?
ジンというとイギリスやヨーロッパのイメージが強い方も多いかもしれません。でも実は、カナダのアルバータ州に、世界的な受賞歴を誇る蒸留所があります。
その名もアノーカ蒸留所(Anohka Distillery)。
2026/3/13、そのアノーカ蒸留所のオーナー兼ヘッドディスティラーであるガープリート・ラヌ氏が来日し、上池袋のGin Bar Copain(コパン)でイベントを開催しました。通訳を務めたのは、神田でジン専門店GLOBAL GIN GALLERY(https://www.gin-gallery.com)を営む髙山憲吾氏。
筆者もこのイベントに参加し、一杯目からマティーニでアノーカジンを体験しました。飲んで20分、しっかり酔いがまわりました。ジュニパーの風味がしっかりあり、特有のうまみやコクが強い印象。素直に「美味しい」と思える一本でした。
この記事では、イベントでラヌさんが語ってくれた蒸留所のお話と、テンペスト・ドライジンの魅力を伝えていきます。
アノーカ蒸留所とは?カナダ・アルバータ州から
アノーカ蒸留所は、カナダのアルバータ州にある蒸留所です。創業は2021年12月。コロナ禍の真っ只中という挑戦的なタイミングでスタートしたと言います。
アルバータ州といえば、実は世界屈指の大麦の大産地。ラヌさんによると、アルバータ州だけでアメリカ全土よりも多くの大麦が栽培されていて、スコットランドの3倍にのぼるとのこと。それだけの穀倉地帯でありながら、その大麦の多くは牛や豚のエサとして使われていたそうです。
「こんなにいい大麦があるのに、もったいない」その思いがアノーカ蒸留所の原点です。
もともとの夢はウイスキーだった
ラヌさんがもともと作りたかったのは、実はウイスキーだったそうです。しかし、ウイスキーは最低でも3年間の熟成期間が必要。「その3年間、どうやって生活するの?」と奥さんに釘を刺され、ビジネスプランを見直すことに。
その結果、熟成なしですぐに販売できるジンにたどり着きました。
でも最初はYouTubeで独学を試みたものの、これが大失敗。「YouTubeではスピリッツの作り方は学べないとすぐに悟りました」とラヌさんは苦笑い。その後、世界最高峰の蒸留教育機関として知られるスコットランド・エディンバラのヘリオット・ワット大学・国際醸造蒸留センターに入学。なんとそこの教授は、あのボンベイ・サファイアの元ヘッドディスティラーだったそうです。
ウイスキーが「科学」ならジンは「アート」
ウイスキーのためにジンを学び始めたラヌさんでしたが、作っていくうちにジンの魅力に完全にハマってしまったと言います。
「ウイスキー作りはどちらかというと『科学』ですが、ジン作りはもっと『アート(芸術)』に近い。フレーバーで遊んだり、真っ白なキャンバスに絵を描くような感覚です。」
今では「ウイスキーよりジンを飲むことの方が多いかもしれない」と語るほど。ウイスキー蒸留所を目指したはずの男が、ジンに恋をしてしまったわけです。
この話、ジンラバーとしてはとても共感できるんですよね。ジンって、飲んでいるうちに気づいたら「次はこれも試したい、あれも飲みたい」となっていく不思議な魅力がある。ラヌさんのようにプロフェッショナルとして深く関わることで、その魅力はさらに倍増したのでしょう。

テンペスト・ドライジンはどうやって生まれたか

400種類のフレーバーライブラリ
ヘリオット・ワット大学を卒業したラヌさんが最初にやったこと、それは「毒性のないあらゆるボタニカルを購入して、ひとつひとつ個別に蒸留する」という地道な作業でした。
その数、なんと400種類。すべてのボタニカルを個別に蒸留してフレーバーの小瓶を作り、膨大な「フレーバーライブラリ」を構築したのです。
そこからさらに数ヶ月かけてブレンドを繰り返し、異なるボタニカルをさまざまな比率で組み合わせ、どう相互作用するかを確認していきました。このプロセスだけで約6ヶ月。
「毎晩実験して、気づいたら床で寝てた夜もたくさんありました」
でも、そのすべてに価値があったとラヌさんは言います。なぜなら、その結果として「テンペスト・ドライジン」が生まれたからです。
ボタニカルは「足し算」じゃない
ここでひとつ、面白い話があります。
ラヌさんが強調していたのが「ボタニカルは単なる足し算ではない」ということです。
テンペスト・ドライジンにはジュニパーが膨大な量使われています。ジュニパーといえばジンの主役ですが、実は単体ではあまり美味しい味ではなく、松ヤニのような風味になりがち。でも、そこにカルダモンをほんの少し加えると、フルーティーさが際立ち、バランスが取れるのです。
「フレーバーはパーツの合計ではない。それぞれのボタニカルが互いに影響し合い、相手の感じ方を変えていく。」
レシピが数グラムでもずれると、フレーバーの現れ方が完全に変わってしまうほど繊細な世界です。
テンペスト・ドライジンのボタニカル構成
テンペスト・ドライジンには11種類のボタニカルが使われています。
| ボタニカル |
| ジュニパーベリー |
| コリアンダー |
| オーリスルート |
| アンジェリカ |
| ベイリーフ |
| カルダモン |
| ブラックペッパー |
| グレープフルーツピール |
| ライムピール |
| ベトナム産シナモン |
| (その他) |
グラスに注いだとき、カクテルが白く濁ることに気づかれた方もいるかもしれません。これは通常のジンの約10倍ものボタニカルを使用しているため、精油成分がしっかり溶け出している証拠。その濁りはこのジンのこだわりと強度の象徴です。

カナダ唯一の「直火蒸留」——メイラード反応を狙う
テンペスト・ドライジンを語るうえで外せないのが、蒸留方法へのこだわりです。
アノーカ蒸留所は、カナダで唯一、蒸留器を直火で加熱している蒸留所です。ほとんどの蒸留所が蒸気を使って加熱するのに対し、アノーカは文字通りの「火」を使います。
なぜ直火にこだわるのか?
ラヌさんが挙げるのが「メイラード反応」です。グリルで焼いた肉がこんがりと旨みを持つのも、このメイラード反応によるもの。アミノ酸と還元糖が高温で結合することで、新しいフレーバー分子が生まれます。蒸気加熱ではこの反応は起きません。
「人間は地球上で唯一、食べ物を調理する動物です。数十万年の進化を経て、私たちのDNAには火で調理された食べ物への好みが刻み込まれている。」
この考え方、なかなか深いと思いません?
焼き魚と煮魚が違う料理であるように、調理法の違いは味の根本に影響を与えます。蒸留においても同じことが言えると、ラヌさんは主張します。高温にならなければ生まれないフレーバー分子が確かに存在する。それを狙っているのが、アノーカの直火蒸留なのです。
もちろん、直火は危険を伴います。消防署からも「やめなさい」と言われ、ラヌさんのお母さんからも猛反対されたそう。それでも「爆弾(高濃度アルコール)の下で火を焚くカナダで唯一の愚か者」と名乗りながら、その道を貫いています。
世界が認めた実力——輝かしい受賞歴
その「愚か者」の判断が、世界的な評価として結実しています。
創業わずか4年でウイスキー部門の世界最高賞を2回受賞。カナダ最優秀ウイスキーは4年連続受賞。ジン部門でもカナダ最優秀を3回受賞するという圧倒的な実績です。
「直火蒸留のリスクを取ったことが、これだけのアワードにつながった」と髙山さんも語っています。

ラヌさんに聞くおすすめの飲み方-「強いカクテル」で本領発揮
さて、気になる飲み方ですが、ラヌさん本人のイチオシは「ニート(常温ストレート)」。「このジンは本当に美味しいので、ストレートが一番好き。自分は変人なんですけどね(笑)」とのこと。
でも、カクテルにするなら、ラヌさんが強調するのが「強いカクテル」との相性です。
ネグローニ、マティーニ、ラスト・ワード、ビジュー
具体的に挙げられていたのが、ネグローニ、マティーニ、ラスト・ワード、ビジューといったカクテルです。
ネグローニには苦味の強いカンパリが使われ、ビジューにはシャルトルーズという強烈なリキュールが入っています。普通のジンだと、これらの素材に「負けてしまう」ことがある。でもアノーカのテンペストは、ボタニカルの濃度と直火蒸留由来の力強いフレーバーで、カンパリにもシャルトルーズにも負けないのです。
「そういう強烈なフレーバーと戦える状況でこそ、このジンは本当に輝く。」
実際にイベントで提供されたネグローニを飲んだ参加者の方も「ネグローニ、すごく美味しかった!」と絶賛されていました。
このジンのポテンシャルを最大限引き出すなら、ぜひ「強いカクテル」で試してみてほしいと思います。
お祝いの場面に
ラヌさんがもう一つ語っていたのが、飲むシーンについて。
「何か大切なことが起きた時、お祝いの時に飲んでほしい。アノーカはそんなめでたい時に飲むお酒です。」
クラフトジンは日常使いのものも多いですが、アノーカは少し特別な一本として手元に置いておきたくなります。昇進祝い、誕生日、記念日。そんな場面にこのジンを取り出すのが似合いそうです。

購入・取り扱い情報
テンペスト・ドライジンは、日本への輸入をGLOBAL GIN GALLERYが担っています。
| インポーター | GLOBAL GIN GALLERY |
| 店舗 | 東京・神田(ジン専門酒販店) |
| ウェブサイト | https://www.gin-gallery.com |
バーへの卸、個人購入のご相談はGLOBAL GIN GALLERYへどうぞ。
さいごに -カナダから来た「負けないジン」
アノーカ蒸留所のテンペスト・ドライジンは、ひと言で表すなら「負けないジン」です。
YouTubeで失敗し、スコットランドの大学で学び直し、400種類ものボタニカルを蒸留してライブラリを作り、半年かけてブレンドを重ねた末に生まれた一本。カナダ唯一の直火蒸留という誰もやめろと言った選択を貫いた結果、世界が認める蒸留所になりました。
ジントニックやジンソーダで飲むのも決して悪くはありませんが、このジンの本当の姿を見たいなら、ぜひネグローニやマティーニで試してみてください。強いフレーバーの中でも消えない存在感。それがアノーカの面白さです。
クラフトジンの世界は本当に広くて深い。カナダのアルバータ州から届いた一本が、その世界をまたひとつ広げてくれました。







