Neversink Spirits(ネバーシンク スピリッツ):リンゴベースのクラフトジン

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この記事の著者

徳留 康矩

徳留 康矩

雪の日に旅先の蕎麦屋で飲んだクラフトジンに魅せられたウェブライター。
温泉好きも手伝って旅先で飲むその土地のお酒が大好き。
旅で見つけた美味しい食材を自宅でお酒のつまみにするのが得意技。

こんにちは。GinYaMEDIAの徳留です(@dome8686)。
世の中には数え切れないほどのクラフトジンがありますが、今日は私が最も頻繁に手に取るジンをご紹介します。クラフトジンの魅力は「味」だけではありません。飲み手を虜にするもう一つの要素、それはお酒に秘められたストーリーです。作り手の哲学、その土地の歴史、ボタニカルが持つ背景。こうした背景情報こそが、クラフトジンの真の魅力だと言えるでしょう。

今回ご紹介するのは、アメリカ・ニューヨーク州の豊かな自然と歴史、そしてリンゴ農家への深いリスペクトから生まれたクラフトジン「Neversink Spirits Gin」(ネバーシンク スピリッツ ジン)です。
このジンはニューヨークのリンゴをベーススピリッツに使用し、「味の複雑さ」を特徴としています。この記事では、その複雑な味わいの背景にある作り手の思想、ニューヨークのリンゴの歴史、そして何よりも、その魅力に取り憑かれて日本への輸入を決意した一人の女性インポーター、合同会社artless代表の金子奈津子(かねこ なつこ)さんの行動力に焦点を当てます。
明るく行動的な金子さんは、クラフトジンがまだ日本に本格的に上陸する前にこの味と出会いました。彼女の視点を通して、Neversinkの世界を掘り下げていきたいと思います。

ニューヨークの大自然と歴史が生んだクラフトジン「Neversink」

私のNeversink体験:大人の視点から見たほんの少しの「希望」

少し個人的な話になりますが、Neversinkは私がとても大好きなジンです。この話を聞くまで、私はプロダクトネームを「翻訳」した際に辞書に出てきた「不沈」という言葉を強く意識していました。この言葉をそのまま受け取ると「諦めないこと」への強い意志として、日本人の感覚では非常に重く捉えられる傾向があります。
ボトルのエチケット(ラベル)には、渡り鳥であるノドアカハチドリが描かれています。その姿が少し上を向いていること、そして深みのある味わいから、どこか酸いも甘いも知っている「大人」を構成するレイヤーを感じていました。歳を重ねるごとに思うことですが、うまくいったこともうまくいかなかったことも、良い思いも悔しい思いも含めて、それが「大人」を構成するレイヤーなのだと感じています。


ある時、Neversinkが置いてあるバーで友人と飲んでいた際のことです。「会社のビルを出た時にさ、空が青くてさ。あぁ、こんなに空って広かったんだって久々に思ったよ」と、会社を辞めた時の解放感を友人がつぶやいたのです。その時、私の視界の先にあったのがNeversinkでした。実はこれはプロダクトネームの本来の意味合いとは異なるのですが、この時の私にとってNeversinkは、不屈の精神や自由といったメッセージとして捉えており、それを体験した瞬間だったのです。
しかし、作り手である彼らがこのジンに「不屈の精神」といった意味合いを込めたわけではないことを、金子さんから後日聞くことになります。

創業者たちが込めた真の想い:ネバーシンク川へのリスペクト

Neversink Spiritsの名称は、ニューヨーク州にある「Neversink River」(ネバーシンク川)に由来しています。この川は、ニューヨーク州の多くの人々、そして動植物の命の源です。彼らが意図したのは、この川から始まった歴史、そして大自然へのリスペクトでした。
ロゴマークには、その川に樽が浮かんでおり、一羽の鳥が止まっています。彼らの理念の根底にあるのは、リンゴ産地へのリスペクト、つまり、ニューヨーク州の自然や農産物をより多くの人に伝えたいという強い想いです。
彼らの目的は、ウォール街のイメージが強いニューヨークに、実はこんな歴史があり、こんな豊かな自然があるということを世界に知ってもらうことでした。この点において、彼らの思想には都市化へのアンチテーゼという側面もあると言えるでしょう。

リンゴへの深い愛と開拓者へのリスペクト

Neversink Spiritsが、ジンをはじめとするスピリッツの蒸留にニューヨーク州産のリンゴを100%使用しているのは、この理念の表れです。
アメリカにおけるリンゴへの愛情は並大抵のものではありません。リンゴは17世紀後半にヨーロッパから持ち込まれ、開拓時代にはトウモロコシやジャガイモと並ぶ重要な食材でした。開拓時代のリンゴにまつわる伝説的人物「ジョニー・アップルシード」の物語は、今もアメリカの子供たちが教科書で必ず習うそうです。
また、「As American as apple pie(アップルパイと同じくらい極めてアメリカ的な)」という慣用句があるほど、リンゴはアメリカの文化に深く根ざしています。バーボンウイスキーよりも古くから愛されていたのは、リンゴの蒸留酒であるアップルブランデーでした。しかし、1920年に禁酒法が施行されたことで、多くのリンゴ農家や蒸留所が廃業に追い込まれ、アップルブランデーの伝統と歴史は失われることになりました。
作り手たちは、この歴史に対するリスペクト、そして安くても一生懸命リンゴを作り続けてきた農家への感謝の気持ちを大切にしています。絶やさずに続けてきたことへの感謝を伝えているのです。
彼らは、ニューヨークの自然と農業を表現するために、鳥とリンゴの二つをNeversinkのアイコンに定めています。エチケットに描かれた「ノドアカハチドリ」と「ルリノジコ」は、どちらも渡り鳥であり、ニューヨークで大変愛されている鳥たちです。

陽気な「心」と寡黙な「頭脳」— 作り手、ノアさんとヨニさん

Neversink Spiritsの創業者は、幼馴染のノア・ブラウンスタイン氏とヨニ・ラビノ氏の二人です。彼らはスピリッツ、ワイン、食べ物、そして自然に情熱を持っている人物です。

ヨニ・ラビノ:明るく陽気なNeversinkの「心」

ヨニ・ラビノさんは、明るく陽気なNeversink Spiritsの「心」です。再会時には必ずハグをする人物だと言います。彼の前職は自然保護団体であり、その自然への親和性の高さを示すエピソードがあるそうです。
ある時、ブルックリンのとあるバーのパティオで鳥のさえずりが聞こえた際、ヨニ氏が口笛を吹き始めると、3羽の鳥たちが周りに集まってきたそうです。この光景は彼らにとって日常かもしれませんが、インポーターの金子さんにとっては忘れられない思い出になったと言います。

ノア・ブラウンスタイン:寡黙で思慮深いNeversinkの「頭脳」

一方、ノア・ブラウンスタインさんは、寡黙で思慮深いNeversink Spiritsの「頭脳」です。彼は製造計画や輸出入の手続きを常に担当しています。ノア氏の前職は電子取引の仕事だったそうです。
特筆すべきは、ノア氏の日本文化に対する深いリスペクトです。コロナ前に来日する計画があった際、「言語がわかると深くその文化を知ることができる」と考え、日本語教室に通っていたとか。
彼らは、ブランドの根源的な想いを次のような言葉に込めています。
「We love spirits. We love apples. We love our planet. And, we love you.」

味の複雑さの秘密 -ジンとブランデー、リンゴへのこだわり

インポーターの金子さんがNeversinkに最初に惹かれた最大の理由は、「ネバーシンク」という名前やラベルではなく、単純に「味の複雑さ」ただそれだけだったと言います。

徹底されたベーススピリッツへのこだわり

一言で「ニューヨークのリンゴ」といっても、たくさんの種類があります。


Neversink Spirits Ginのベーススピリッツは、ニューヨーク州産のリンゴ100%で蒸留されています。彼らは、ゴールデンデリシャスやマッキントッシュなど、アルコール飲料に加工した後も余韻が残り、糖度が高く独特の風味を持つリンゴを厳選して使用しています。
蒸留所は、幼馴染のノアさんとヨニさんが長年の研究と思考を重ねて実現したプロジェクトとして、2015年の春にニューヨークのポートチェスターでスタートしました。
彼らは、ジンを作るためにドイツの蒸留機メーカー「アーノルド・ホルスタイン」社の連続式蒸留機を使用していました。金子さんは、初めて蒸留所を訪れた際、このハイブリッドな蒸留機を見た時に感激したと述べています。なお、2023年からニューヨーク州クレイバラックに移転し、蒸留器もサイドにカラムが付いたイタリアのBarison社製1000ℓの銅製ハイブリッドスチルを使用しているとのこと。市場に出回る在庫も徐々にこちらの蒸留器で製造されたものが皆さまのお手元に届きます。

わずか15%のみを使用する、極限の品質管理

Neversink Ginの製法における最大の特徴の一つが、蒸留工程での徹底した品質管理です。蒸留の過程で採れる原酒は、最初(フォアショッツ)、中間(ミドル)、そして最後(フェインツ)に分けられます。Neversink Spiritsは、この中で最も純粋で良質な中間(ミドル)の部分、わずか15%のみを使用するというこだわりを持っています。
この中間部分だけを使うことで、リンゴベース特有の雑味を極限まで削ぎ落とし、ボタニカルの香りを最大限に引き出す優しく複雑な味わいが生まれるのです。

11種のボタニカルが織りなす複雑なレイヤー

Neversink Ginは、以下の11種類のボタニカルを使用しています。

  • ジュニパーベリー
  • コリアンダー
  • カルダモン
  • チャイニーズスターアニス
  • エルダーフラワー
  • シナモン
  • イリス(アヤメ)
  • アンジェリカ
  • レモンピール
  • オレンジピール
  • グレープフルーツピール

特に、ジンの香りの中核を担うジュニパーベリーについては、そのまま漬け込むのではなく、粉砕して一晩漬け込むという工夫を施しています。
この優しく複雑な味わいは、このリンゴベースのスピリッツとボタニカルの緻密な組み合わせによって成り立っています。ベーススピリッツのリンゴとボタニカルの香りが一日の終わりにホッとさせてくれる豊かな気持ちにさせてくれるはずです。

インポーター金子奈津子、運命の「味」との衝撃的な出会い

Neversinkの魅力を日本に伝える金子奈津子さんは、東京生まれの茨城育ち。少しだけ福岡にも住んでいたこともあるそうです。現在は東京を拠点に活動しています。彼女のキャリアは長く、バーテンダーとして働く傍ら、パティシエの勉強もしていた経験があるとのこと。
彼女の長年の経験から、金子さんの味覚は非常に発達していました。例えば、出汁を飲んだら出汁の種類がわかったり、カクテルを飲んだら何がベースで使われているのか風味でわかったりするほどでした。

ニューヨークで出会った「言語化できない味」

蒸留所を訪れた時に三人で撮ったもの

金子さんがNeversinkと出会ったのは、ニューヨークを訪問中の2016年のことです。彼女はバーで「地元のスピリッツを使ったカクテルを作ってくれ」と頼みました。
その結果出てきたのが、Neversinkのカクテルでした。その時、彼女はNeversinkという名前も、ボトルやエチケットも知らなかったと言います。
長年のキャリアで培ってきた味覚にもかかわらず、そのカクテルを飲んだ瞬間、これほどまでに何がベースかわからない味に出会う体験をします。彼女は、その味の複雑さ、ただそれだけに強烈に惹かれました。

当時、日本でクラフトジンはまだ浸透しておらず、開栓されていたのはボタニストなど、ごく初期の銘柄に限られていた時代でした。ロンドン・ドライジンしか知らなかった金子さんにとって、Neversinkの味はそれまで飲んできたジンの味とは異なり、強い疑問が湧いたのです。

筆者が金子さんが作ったNeversinkのカクテルを初めて飲んだ時の写真。甘さと酸味のコントロールに感動しました

味だけで蒸留所へ訪問する行動力

金子さんは、その驚きからすぐにバーテンダーに「この中身は何だ?」と質問したそうです。その結果、それがニューヨークの地酒を使ったスピリッツ・ディスティラリーの製品だと知りました。
彼女は、名前やラベルを知る前から、その味への探求心だけで製造過程に興味を持って蒸留所を訪れます。Neversinkのストーリーや、ベースがリンゴだと知ったのは、後から、あるいは日本に帰ってからに近いタイミングだったと言います。彼女は蒸留所では本当にずっと質問をし、作り方にしか興味がなかったと振り返ります。
この明るく行動的な金子さんの並外れた探求心と行動力が、後の提携へとつながっていきます。

相互理解(ホスピタリティ)がもたらした奇跡の提携

Neversink Spiritsは、現在アメリカのいくつかの州と日本でのみ販売されています。元々アメリカ国内での販売に限定していたNeversinkが、なぜ日本への限定的な輸出を決めたのでしょうか。その鍵は、金子さんと創業者たちの間で生まれた「相互理解(ホスピタリティ)」にありました。

プロの味覚が一致した瞬間

金子さんが蒸留所で行った質問は、彼らが最も悩んだポイントばかりでした。それは、蒸留の温度帯、発酵の時間、その素材がどこから来ているのか、といった詳細な内容です。
彼女の質問と、彼らがこだわっているポイントに金子さんがとても嬉しそうに反応したこと、そして彼女の製造への深い理解が、彼らの中で「この味とは何なのか」という共通認識を生みました。
金子さんが長いキャリアの中で学んだホスピタリティの概念は、「自分と相手が同じ映像、同じ風景を思い描けること」だと言います。これはすなわち相互理解です。金子さんは、Neversinkの輸入を実現したのは、彼女と創業者たちの間にこのコミュニケーションの最終形、つまり相互理解が生まれたからだと語っています。

日本の味覚へのリスペクト

彼らは、金子さんの持つ味覚と伝える力に信頼を置きました。
創業者のノアさんやヨニさんの周りには日本人の移民の方がたくさんおり、彼らが作る商品の美味しさに感動し、味のレイヤーに驚いていたという背景があります。もともと、彼らは日本人の味覚に深いリスペクトを持っていたのです。
だからこそ、彼らは当初アメリカ国内限定だった販売を、金子さんに委ねる形で日本だけに卸し始めたのです。これは、金子さんならば彼らが大切にする「土地のコンテンツ」としての価値観を尊重し、大事に伝えてくれるだろうという信頼があったからです。酒販店ではなく、一人のインポーターにその使命を託したことが、このクラフトジンがいかに作り手の想いを大切にしているかを物語っています。

Neversink Spiritsのラインナップと楽しみ方

Neversinkには様々なラインナップがあります。

Neversink Spirits Gin

Neversink Spirits Gin (アルコール度数43%)
プロダクトのメインとなるスタンダードなジンです。とてもクリアで、そのまま飲んでも十分に楽しめるジンです。カクテルにももちろんおすすめ。
Neversink Spirits Reserve Gin (アルコール度数45%)
Neversinkのジンをワインの樽で寝かせたものです。
Neversink Spirits Pigeon Gin (アルコール度数43%)
トウモロコシを使った蒸留酒。コクがあります。

その他の製品と楽しみ方

Apple Brandy (アップル ブランデー)
リンゴの余韻が残る蒸留酒。ゴールデンデリシャスやマッキントッシュなど、特定のリンゴを選定し、単式2回蒸留で製造されます。
Apple Aperitif (アップル アペリティフ)
アルコール度数21.25%。2024年秋に日本初上陸の製品です。フレンチオーク樽で最低1.5年間熟成させたNeversinkアップルブランデーと、搾りたてのアップル果汁をブレンドし、さらにフレンチオーク樽で18か月以上熟成させる、カルバドス地方の「ポムドノルマンディー」スタイルで造られています。
Select Bourbon (セレクト バーボン)
トウモロコシを主体とし、新しいアメリカンオークで4年間熟成した後、Apple Aperitifの熟成に使用されていたフレンチオーク樽で3か月間仕上げを施したバーボンです。

おすすめのシーン:「ゴールデンタイム」に味わう優しさ

Neversink Spiritsのジンは、単なる食中酒としてではなく、特別な時間帯に楽しむことを推奨しています。それは、日が沈む少し前の「ゴールデンタイム」です。優しく美しい夕日が差し込むこの特別な時間帯に、その日あった美しい出来事を回想しながらNeversink Spiritsのジンを楽しんでほしい。そんなメッセージが込められています。
ちなみに筆者は、いくつかジンを飲んだ後、最後にこのジンを飲むことが多いです。ベーススピリッツのリンゴとボタニカルの香りが一日の終わりに心地良く広がり安心した気分にさせてくれます。

さいごに

Neversink Spirits Ginは、ニューヨークの自然、開拓者の歴史、そしてリンゴ農家への愛とリスペクトといった、非常に深いストーリーを内包しています。金子さんにとって、このジンは単なるアルコールではなく、彼らとの間で生まれた相互理解というコミュニケーションの最終形の結晶です。
Neversinkの良さが、金子さんが惹かれたように、感覚的に通じる人々が世界に広がっていくこと。それは、作り手やインポーターにとって何よりも喜びです。
筆者が感じたような「大人を構成するレイヤー」や「解放感」、そして作り手たちが意図した「土地の優しさ」など、Neversinkの複雑な味わいを通じて、ぜひ読者の皆さま自身でその感覚を感じてみてください。
味覚や感覚を言語化して共有することは難しいとされています。しかし、Neversinkを一口飲むことは、言葉を超えた、ニューヨークの大自然と歴史、そして情熱を持つ人々の想いを「相互理解」として共有する体験となるはずです。

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