2025年7月18日、東京・池袋にあるクラフトジンバー「Bar コパン」にて、スロベニアから「BROKEN BONES(ブロークンボーンズ)」蒸溜所のメンバーが来日し、クラフトジンの魅力を紹介するイベントが開催されました。
ネーミングだけみると「骨折蒸溜所」になるのですが、そのユニークなネーミングの由来、展開しているジンについて蒸溜所のお二人と、日本で輸入を行っている野村ユユニソン株式会社の奈良さんに魅力を語っていただきました。
イベント概要

写真左から(ジェーニャさん、ボシュティアンさん、ポロナさん、奈良さん )
BROKEN BONES蒸溜所の共同経営者であるCEOのボシュティアン・マルシッチュさんと、セールス&マーケティングを統括する奥様のポロナ・プレスカルさんが、遠路はるばるスロベニアから来日され、自らの言葉でブランドの歴史、哲学、そして各ジンの特徴についてプレゼンテーションを行ってくださいました。
日本語で両氏の言葉を通訳し丁寧に伝えてくれた輸入代理店の奈良さん、ありがとうございます。
また、Bar コパンのバーテンダーであるジェーニャさんが、BROKEN BONESのジンをベースに、この日のためにオリジナルカクテルを次々と披露してくれました。
BROKEN BONES蒸溜所のあるスロベニアってどんなところ?
まずBROKEN BONES蒸溜所の故郷であるスロベニアの紹介から始まりました。スロベニアは、中央ヨーロッパに位置する小さな国でありながら、その多様な自然と豊かな歴史文化がある国です。西にはイタリア、北にはオーストリア、東にはハンガリー、南にはクロアチアと国境を接し、まさにヨーロッパの文化が交錯する十字路に位置しているのです。国土面積は日本の四国とほぼ同じくらいの広さだと聞き、親近感を覚えました。人口は約212万人と、四国よりはやや少ない規模ですが、その小さな国土に多様な景観が広がることに驚かされます。公用語はスロベニア語ですが、教育水準が非常に高く、国民の多くが英語が堪能だそうです。
蒸溜所が拠点を置くのは、スロベニアの首都リュブリャナです。人口約29万人のこの都市は、「コンパクト」という言葉がぴったりで、歴史的な美しさと現代的な活気が見事に融合しているとのこと。街の中心には、丘の上に堂々とそびえ立つリュブリャナ城があり、そこから見下ろす旧市街の赤い屋根が連なる景色は、まるで絵画のようです。リュブリャナは「ヨーロッパで最も緑豊かな都市」の一つとしても知られ、市街地には多くの公園や緑地が点在し、市民の憩いの場となっているようです。さらに、2021年には「リュブリャナの建築家ヨジェ・プレチニッ ク作品群-人間中心の都市デザイン」として、ユネスコ世界文化遺産にも登録され、その文化的価値が世界的に認められていることに、感銘を受けました。
リュブリャナの街の至るところで見られるシンボルが「ドラゴン」だという話は、とても印象的でした。これは、ギリシャ神話に登場する聖ゲオルギオスがドラゴンを退治した場所がリュブリャナであるという伝説に由来しているそうです。かつては国を襲う悪の象徴とされたドラゴンも、長い歴史を経て、今ではリュブリャナを守り、市民に力と幸運をもたらすポジティブな存在として深く愛され、市の旗にもドラゴンが描かれており、街のアイデンティティとして根付いていることに、その土地の文化の深さを感じます。
骨折蒸留所?! BROKEN BONES蒸溜所のブランドの由来

「BROKEN BONES(ブロークンボーンズ)」という蒸溜所の名前は、日本語に直訳すると「骨折」という意味になります。初めて聞いた時は、ジン蒸溜所の名前としてはあまりに意外で、思わず耳を疑います。しかし、その背後には、共同経営者たちのユニークで、そして何よりも職人魂が込められた物語がありました。

写真左から(ボシュティアンさん、ポロナさん、ボルトさん)
蒸溜所の共同経営者であるボシュティアンさんとボルトさんは、元々ウイスキー造りに深い情熱を抱いていたとのこと。彼らはウイスキーの蒸溜器を自らの手で作り上げるほどのこだわりを持ち、その研究と試行錯誤に明け暮れる日々を送っていたそうです。そんなある日、ボシュティアンさんが蒸溜所の機材を運んでいる最中に足を滑らせ、なんと足を骨折してしまいます。そしてそのわずか10日後、今度はボルトさんがミニゴルフを楽しんでいる最中に、お子さんがゴルフクラブを振り上げた時に不運にも鼻に直撃し、鼻を骨折するという、まるで漫画のような、しかし現実の出来事が重なったのです。
ブランド名をどうするか悩んでいた彼らは、この二度の「骨折」という共通の経験を、逆境を乗り越える象徴として捉えました。そして、「良い仕事をするには骨を折る必要がある」という日本のことわざにも通じる意味合いを重ね合わせ、「最高のジン、最高のウイスキーを造るためには、骨を折るほどの努力と情熱が必要だ」という強い決意と哲学を込めて、「BROKEN BONES DISTILLERY」と名付けたのでした。この名前は、彼らの妥協なき職人魂と、困難を乗り越える精神を象徴しており、私自身も彼らの情熱に深く共感しました。
蒸溜所のはじまりは、2012年に遡ります。ウイスキー愛好家であったボルトさんが、ボシュティアンさんに「スコッチウイスキーに匹敵する、最高のウイスキーをスロベニアで造ろう」と電話で熱く語りかけたことが、全ての始まりだったと聞き、その熱意に心を打たれました。そこから5年もの歳月をかけて、ウイスキーの研究と試行錯誤が重ねられ、ようやくニューメイクウイスキーが完成しました。しかし、このウイスキー造りの過程で、ポロナさんは発酵の匂いに悩まされることもあったというエピソードは、彼らの家族経営ならではの温かさを感じさせます。
そんな中、ウイスキーが樽に入れられる段階になった2017年頃、彼らはロンドンで開催されたウイスキーフェアに参加しました。そこでポロナさんは、様々な蒸溜所が手掛けるジンをテイスティングする機会を得ます。その華やかで芳醇な香りと味わいに魅了されたポロナさんは、「ジンってすごく華やかで香り高くて良い!」と感銘を受け、自分たちでもジンを造ろうと決意します。そして2018年、BROKEN BONESのシグネチャーとなる「ロンドンドライジン」が誕生しました。ウイスキー造りの情熱から生まれたジンは、今や蒸溜所の顔として日本にも届いているのです。
展開している4つのクラフトジンについて

BROKEN BONES蒸溜所が展開する4種類のクラフトジンは、それぞれが個性豊かで、彼らのこだわりとスロベニアの自然が凝縮されています。一つ一つのジンに込められた物語と味について紹介していきます。
ロンドンドライジン
BROKEN BONES蒸溜所が最初に完成させたのが、この「ロンドンドライジン」です。最高のジントニックを飲みたいというポロナさんの強い思いから、ジン造りは始まったとのこと。理想の味わいを追求するために、30種類以上のボタニカルを試作し、実に100回以上もの試行錯誤を重ねたといいます。その結果、ジュニパーと柑橘の風味が豊かに広がる、蒸溜所を象徴する10種類のボタニカルが厳選されました。
ボタニカル: ジュニパー、レモンピール(フレッシュ&ドライ)、カルダモン(グリーン&ブラック)、コリアンダー、リコリス、アンジェリカ、アイリス、リンデンフラワー、ローズヒップ
アルコール度数: 45%
このジンには、スロベニアの特産品であるローズヒップや、スロベニアの国花であり「菩提樹の花」としても知られるリンデンフラワーが加えられています。これにより、伝統的なロンドンドライジンの製法に、スロベニアならではの個性が融合され、イギリスとスロベニアの文化が織りなすユニークな味わいを生み出しています。

イベント当日はビービーマティーニとして提供されました。
ネイビーストレングスジン
ウイスキー造りの熟成期間を待つ間に、新たな挑戦として開発されたのが、この「ネイビーストレングスジン」です。そのアルコール度数は57%と非常に高く、その名前がイギリス海軍の歴史に深く由来していると聞き、その背景にある物語にロマンを感じます。かつて、船上でジンを保管する際に、樽から漏れ出したジンが火薬にかかった際、アルコール度数が57%以下だとその火薬が使い物にならなくなり、57%以上あれば、火薬がダメにならない基準があったそうです。この度数が「本物のジン」を見極める基準とされていたという話は、非常に興味深かったです。こういう話は原点思考の強い私は非常にわくわくします。
このジンは、ロンドンドライジンと同じボタニカルを使用していますが、その使用量を通常の2倍に大幅に増やすことで、より力強く、凝縮された風味を実現していることに驚きました。高アルコール度数でありながらも、濁りが出ることなくクリアな味わいを保っているのは、彼らの蒸溜技術の高さの証です。その力強い風味は、ネグローニのようなカクテルにおいても、ジンの個性をしっかりと主張し、多様なカクテルベースとしてもその真価を発揮すると思われます。
ボタニカル: ジュニパー、レモンピール(フレッシュ&ドライ)、カルダモン(グリーン&ブラック)、コリアンダー、リコリス、アンジェリカ、アイリス、リンデンフラワー、ローズヒップ
アルコール度数: 57%

当日はミルクパンチとして提供されました。
リュブリャナ ドラゴン ジン
スロベニアの首都リュブリャナの象徴である「ドラゴン」をテーマに造られたのが、この「リュブリャナ ドラゴン ジン」です。ドラゴンの「炎(Fiery)」をイメージし、オリジナルレシピの10種類のボタニカルに加えて、ジンジャーが使用されていると聞き、その発想に心を躍らせました。ジンジャーがもたらすピリッとしたアクセントと、体を温める作用が特徴的で、まさにドラゴンの情熱を感じさせる一本だと感じました。
ボタニカル: ジュニパー、レモンピール(フレッシュ&ドライ)、カルダモン(グリーン&ブラック)、コリアンダー、リコリス、アンジェリカ、アイリス、リンデンフラワー、ローズヒップ、ジンジャー
アルコール度数: 45%
おすすめの飲み方としては、ウォッカベースのカクテル「モスコミュール」のジンバージョンである「ジンミール」や、卵白とジンジャーエールを層状に重ねて作る「サワーニンジャ」といったカクテルが挙げられました。
蒸溜所の公式ウェブサイトには、彼らが推奨するジンのレシピが多数掲載されており、様々な飲み方でこのジンの魅力を発見できると聞き、ぜひ試してみたいと思いました。また、現地では旅行客を招いてジン造り体験なども行っているとのこと、いつか私も参加してみたい!

当日はこのような「スロベニアミーツジャパン」という名のカクテルで提供されました
オールド トム ジン
「オールド トム ジン」は、伝統的なスタイルで造られる甘口のジンですが、BROKEN BONESのオールド トム ジンには、ポロナさんのこだわりが詰まっているようです。彼女は砂糖の甘みが得意ではないため、様々な甘味料を試した結果、スロベニア産のリンデンハニー(菩提樹の蜂蜜)を使用することにしたそうです。リンデンフラワーは元々ロンドンドライジンのボタニカルにも使用されており、その花から採れる蜂蜜を使用することで、ジンの風味に一体感を与えていることに、私はその繊細なバランス感覚を感じました。
ボタニカル: ジュニパー、レモンピール(フレッシュ&ドライ)、カルダモン(グリーン&ブラック)、コリアンダー、リコリス、アンジェリカ、アイリス、リンデンの花、ローズヒップ、リンデンハニー
アルコール度数: 43%
スロベニアは蜂蜜の特産地でもあり、特にリンデンハニーは単に甘いだけでなく、スパイシーさや複雑なアロマを持つのが特徴だと聞き、その奥深さに惹かれました。この蜂蜜を加えることで、甘さだけでなく深みと奥行きのある味わいが生まれ、世界的なコンペティションでも高く評価されていることに、私は彼らの品質への絶対的な自信を感じ取ることができました。

当日は「The twist」という名前のカクテルが提供されました。
ちなみに私個人的にはこのカクテルが一番好みでした。甘さの芯の先に広がるフローラルさがなんとも気持ちが良い。
数々の受賞歴と新たな挑戦

BROKEN BONES蒸溜所は、その品質の高さが世界的に認められ、数々の国際的な賞を受賞しています。初めはスロベニア国内に5つほどしかなかった蒸溜所の中で、彼らは互いに飲み比べを行い、品質向上に努めてきたという話は、クラフトマンシップへの真摯な姿勢を感じさせました。その結果、今では100種類以上の賞を獲得しているとのこと。
現在、彼らはジンだけでなく、ウイスキー(ピーテッド、ノンピーテッド)やスロージン、ラム、ウォッカ、そしてブレンデッドウイスキーなど、ラインナップを拡大させているとのこと。特に、ポロナさんの実家がワイナリーであった経験を活かし、現在はジンに使用しているボタニカルからインスピレーションを得た「ベルモット」の開発にも取り組んでいるようです。
ジンに合わせてみたい食事について聞いてみた
トークセッションの後にジンに合うおすすめの食事について質問してみました。ポロナさんからは、「ペアリングはアートなんだから特定の食べ物に限定せず、様々なものとのペアリングを試してほしい」という、自由な発想を促す回答がありました。その言葉に私は大いに共感です。蒸溜所のメンバー自身も、常に新しい食べ物との組み合わせを試しているという話は、彼らの探求心の一端を感じさせました。
参加者の一人からは「ロンドンドライジンはソルティな部分とレモンが強いので、天ぷらのような和食にも合うのではないか」というユニークな提案もありました。
さいごに

BROKEN BONESのクラフトジンは、現在、武蔵屋さんでオンライン購入が可能です。今回のイベントでその魅力に触れ、興味を持たれた方は、ぜひご自宅でもスロベニアの情熱が詰まった一杯を体験してみてはいかがでしょうか。
武蔵屋オンライン
https://store.musashiya-net.co.jp/

イベントの最後は参加者の皆さんで集合写真を撮りましたよ。みなさんいい笑顔!
関連リンク
BROKEN BONESウェブサイト
https://www.brokenbones.si/
BROKEN BONES instagram
https://www.instagram.com/brokenbones.si?igsh=OXd3Y2JhaWppbm1x
武蔵屋ONLINE
https://store.musashiya-net.co.jp/
Bar copain instagram
https://www.instagram.com/barcopaintokyo?igsh=MTJqcWJxNjFjazF6Yw==
野村ユニソンリカーチーム instagram
https://www.instagram.com/unison_liquor?igsh=MzBoMW9pZDduMTJv