クラフトジンに合うトニックウォーターは?北海道「KUMI」工場で聞いた美味しさの秘密

KUMI (800 x 600 px) 2025

この記事の著者

徳留 康矩

徳留 康矩

雪の日に旅先の蕎麦屋で飲んだクラフトジンに魅せられたウェブライター。
温泉好きも手伝って旅先で飲むその土地のお酒が大好き。
旅で見つけた美味しい食材を自宅でお酒のつまみにするのが得意技。

こんにちはGinYaMEDIAの徳留(@dome8686)です。
またまた弾丸で北海道に行ってきました。今回はゆっくり滞在する時間もなく、36時間という限られた滞在時間。どこに行こうか悩んでいると「是非、工場に遊びにおいでよ。」と社長の中澤浩司(なかざわ こうじ)さん(@kojinakazawa_sapporo)にお誘いをいただいたのでトニックウォーターの工場見学に行ってきました。

札幌市手稲区に製造拠点を構えるBITTER POPS COMPANYのトニックウォーター「KUMI」。今回その工場を訪れ、代表の中澤さんにお話を伺いました。クラフトジン文化が盛り上がる北海道で生まれた「KUMI」は、単なる割り材ではありません。お酒の味わいを補い、深めることを目指した、クラフトマンシップが息づく製品です。中澤さんとの対話を通じて見えてきた「KUMI」の哲学、品質管理、そしてトニックウォーターが秘める可能性について紹介します。

工場近くの風景。奥に見えるのがこのエリアのシンボル山、手稲山(ていねやま)

BITTER POPS COMPANYが追求する「苦味(くみ)」の哲学

トニックウォーター事業の原点

このトニックウォーター事業が立ち上がった背景には、日本のクラフトジン市場における需要と、同社の「人を想うモノづくり」への強い意志がありました。
近年、日本国内ではクラフトジンブームが続き、100を超える蒸留所が存在すると言われています。しかし、多様化する繊細な国産クラフトジンの味わいに心から合うトニックウォーターの選択肢は少ない状況でした。中澤さんは、既存の海外製品が持つ「濃さ」とは一線を画す、「日本の繊細なクラフトジンに合うトニックウォーターのポジションが空いている」と見抜き、事業化を決意します。
マンションなどの窓の事業を行う会社の代表でもある中澤さんは当時の建設業特有の課題を感じており、このトニックウォーターの新規事業は、当時の建設業が抱えていた内的な課題を解決する役割も担っていました。「建設業は男性の育休取得が厳しいんですよ。ただでさえタイトだし、先方都合で振り回されやすい。なので子育てをしていても働けるような新規事業。体力的にきつい人や怪我した人でも働けると尚良いですね。」と語ります。自社でコントロールできるモノづくりを通じて従業員のモチベーションを向上させたいそんな想いがありました。市場の機会と、働く人への想いが重なり、「KUMI」の挑戦は始まったのです。

「苦味」と親しくなる商品づくり

BITTER POPS COMPANYが目指すのは、「苦味」と親しくなる商品づくり。「苦さが未来を面白く」というメッセージには、そんな想いが込められています。五味のなかで「苦い」は敬遠されがちですが、ヨーロッパではリキュールや薬酒として古くから愛されてきました。中澤さんは、この苦味を美味しく感じるためのエッセンスと捉え、ミキサーとしての可能性を追求しています。

トニックウォーターの起源であるキニーネを日本で初めて輸入・実用化

製品名の「KUMI」は、文字通り「苦味」と読みます。トニックウォーターの原点であるキニーネの「苦味(くみ)」をベースに開発されたこと、そしてさまざまなお酒と「組み合わせる」ことで新たな感動を生み出したいという願いが込められています。
トニックウォーターの起源となるキニーネは、元々「既存添加物」として登録されていたものの、日本国内で実際に輸入された実績はありませんでした。2023年には使用実績のない添加物を削除する動きがあったため、BITTER POPS COMPANYはキニーネを日本で初めて輸入・実用化。今後も継続して輸入できるよう道筋をつけたそうです。

原料選定と風味の設計思想

出荷を待つトニックウォーター

「KUMI」が目指すのは、「お酒に合う国産のトニックウォーター」。飲みやすさに偏った甘すぎるトニックウォーターとは一線を画しています。

苦味へのこだわり

苦味の起源であるキニーネを含む樹皮類、ハーブ、柑橘の皮など、さまざまな苦味成分を試し、採用しています。特にキナ抽出物(キナの木から採れる苦味成分で、主成分はキニーネ)は、歴史があるから使うのではなく、トニックウォーターとして本当に味に合うのかを確認したうえで採用されています。

甘味と酸味の追求

苦味だけでなく、酸味や甘味とのバランスも重視。甘味料や酸味料は国産でナチュラルなものを厳選しています。特に甘味については、近年の低糖質・低カロリー志向を考慮し、地元北海道の砂糖を使用。毎日飲んでも良いと思える美味しさに調整されています。

「転化糖」への加工

砂糖(グラニュー糖)は約24時間かけて攪拌・加熱され、「転化糖」に分解されます。リキュールや酒の甘味と同じサイズにすることで、トニックウォーターに入れた際に「すっと入る」甘さになり、お酒の味を邪魔しません。この独自製法が「KUMI」の深い味わいを支えています。

香料の採用

香料については、あえて国産ではない自然由来のものを採用。飲み慣れたドリンクにはない香りを加えることで、飲み手に新しい体験を届けたいという意図からです。

「KUMI」トニックウォーター ラインナップの魅力

BITTER POPS COMPANYが提供する「KUMI」には、現在3種類のフレーバーがあり、それぞれ異なる酒類やシーンとの組み合わせ(KUMI)を提案しています。

  1. KUMI PLAIN(プレーン)

    シンプルさを追求したスタンダードなトニックです。

    • 風味特性: クラフトジンとの組み合わせを最優先に設計。あえて目立つ香りはつけず、やさしいレモンピールとダイダイの香りで仕上げています。
    • 相性: カクテルに使用することで、ジンの香りをより引き立てます。果実や香草との相性も良く、レシピの可能性は無限大。
    • 苦味: キナ由来の苦味は強めに設定し、クラフトジンの味わいを補って深めることを意図しています。
    • 試飲体験: 爽やかで、苦味は最後にキュッと締まる印象。汎用性が高く、お酒なしでも楽しめる美味しさです。
  2. KUMI BOOST(ブースト)

    お酒好きな方向けに開発された、より強い苦味を求める人のためのトニックです。

    • 風味特性: 甘さ控えめで、ワームウッド(ニガヨモギ)の香りが濃く感じられます。「BOOST」という名前は、他の炭酸飲料やソーダに加えて苦味を「さらに美味しく」「さらに楽しく」格上げできる点に由来。
    • 苦味: 非常に苦いトニックを目指し、5種類ほどの苦味を重層的に配合。キニーネとワームウッドの苦味がメインです。
    • 相性: しっかりとした苦味を求める方やリキュール好きにもおすすめ。試飲では、苦味がきいてリキュールのような美味しさがあり、ジントニックに最適との声も。
    • デザイン: 苦く重厚なイメージを表現するため、少しグリーンがかったブルーの色調を採用。
  3. KUMI PINK(ピンク)

    華やかな気持ちになれることをイメージして作られたトニックです。

    • 風味特性: 強い香りはつけず、ジンとの相性を大切にしながら、ローズとルバーブを組み合わせた可愛らしく華やかな香り。
    • 甘味/苦味: すっきりとした甘味でくどさがなく、ボトルの最後の一滴まで美味しく楽しめます。苦味は控えめなので、ノンアルコールドリンクとしても気軽に楽しめます。
    • デザイン: 女性が飲みたいと思えるような、オレンジがかった可愛いピンク色。
    • 補足: 使用されているルバーブは北海道ならではの素材。水や氷だけでも美味しく飲める点が魅力です。

【※注意喚起】
KUMI製品は、アステミゾールを投与中の方、妊婦または妊娠の可能性がある方、およびキニーネに過敏症の既往歴がある方は飲用をお控えください。

徹底された製造環境と製品管理

工場内部


BITTER POPS COMPANYの工場は、元々窓の工場だった建物を、トニックウォーター製造専用に全面改造した施設です。全国のクラフトジンメーカーとの協業も視野に、小ロット生産に特化した体制を構築しています。

クリーンブースと衛生管理

工場内の充填ライン区域は「クリーンブース」と呼ばれています。KUMIは酒ではなく清涼飲料水のため、菌や汚れが入ると増殖するリスクがあります。そのため、フィルターを通して清浄な空気が入る構造になっています。
製造作業には食品工場の服装が必要ですが、液体の充填など食品に直接関わる部分はブース内で行われ、外部の作業環境と区別されています。

瓶と缶の充填ライン

工場には、瓶と缶、両方の充填に対応する設備が整っています。

瓶・容器の調達

使用されている瓶は、現在日本の製造が非常に忙しいため、すべて海外から輸入されています。

充填工程の技術(泡立たせない工夫)

炭酸飲料を充填する装置

炭酸飲料を充填する際、圧力をかけずに液体を出すと泡立ってしまいます。これを防ぐため、KUMIの充填機では以下のプロセスが採用されています。

  1. 圧力均一化: 充填ノズルと容器を接続後、まずタンク内のガス(CO2)を容器内に出し、上(タンク)と下(容器)の圧力を揃えます。
  2. 静かな充填: 圧力が等しくなった状態で液体を注入すると、泡立たずに液体がゆっくりと移動します。
  3. 底からの充填: 炭酸飲料は泡立ちやすいため、ノズルが長く設計されており、液を底から注入する構造。
  4. 液量調整: 最初に規定量より多めに充填し、その後不要な部分を上から吸い取ってタンクに戻すことで正確な液量を実現。炭酸飲料は充填直後に泡が沈むため、正確な液量に合わせる工夫です。

缶製品の可能性

現在、BITTER POPS COMPANYは日本のクラフトジンとKUMIトニックウォーターを組み合わせて、美味しいジントニックを缶に詰めて届ける計画も考えているそう。缶はリサイクル性が高く、使いやすいという利点も重視されています。

水へのこだわりと炭酸の品質追求

カーボネーターで炭酸を溶け込ませる装置

トニックウォーターの品質を左右する重要な要素が「水」と「炭酸」です。

冷却の重要性

炭酸ガスは冷えている方が水に溶け込みやすい性質があります。そのため製造ラインでは、液体(シロップを混ぜ合わせた原液)を熱交換器で冷却水と熱交換させ、約4度まで冷やしています。

究極の炭酸実現への挑戦

中澤さんは、温度が低いほど炭酸がきめ細かく溶け込むという理論に基づき、さらなる品質向上を目指しています。北海道ならではの試みとして、気温が2度以下の冬の寒い日に外気を工場内に取り込み、2度で仕込みを行う実験を計画中とのこと。低温と高い圧力が炭酸を溶け込ませる二大条件であり、この実験を通じてシャンパンのようなきめ細かい泡の炭酸が実現できるかを探求しています。

水源の選択とコスト

現在、洗浄水には水道水を炭フィルターに通した浄水を使用しているそうです。しかしこの方法では残留塩素を完全にゼロにできないという課題があります。そのため、残留塩素をゼロにできるRO水(逆浸透膜水)や、羊蹄山のミネラル水を使用することも検討中とのこと。

最新の殺菌技術の導入

より清潔で安全な製品を目指し、新たに殺菌機が導入されました。

殺菌の目的と課題

食品衛生法上、ハーブ入りトニックウォーターの場合は65度、水の場合は85度での殺菌が必要となる場合があります。しかし炭酸飲料は温めると炭酸が膨張し、缶が爆発するリスクがあります。

外圧制御による殺菌

この殺菌機は、缶が爆発しないよう、缶の周囲にエアーを入れて圧力をかけ(外圧)、内部の圧力と外圧を揃えながら温めることで安全に殺菌処理を可能にします。今までKUMIは無殺菌で製造されていましたが、より清潔感を出し、充填後の缶の縁に残る汚れや黒い跡を防ぐため、この殺菌工程を導入しました。本生産から全製品に適用していく予定です。
殺菌テストの結果、一部では缶が変形する事例(85度で蒸した場合など)もあり、現在も外圧の調整を含め、安全に大量生産できるようテストが重ねられています。

クラフトマンシップと未来への展望

KUMIの瓶に貼られるラベル


BITTER POPS COMPANYは、常に新しい体験と美味しさを追求しています。カクテルに使用するハーブを煮詰め、液糖に香りを移す作業は、まるでバーテンダーが行う作業そのもの。クラフトマンシップが息づいています。
中澤さんは、この「苦味と親しくなれる商品」を通じて、ジンをはじめとする酒類開発者や愛飲家とつながりたいと考えています。KUMIが最高の脇役となり、割ることでそれぞれのお酒が持つ味わいに奥行きを出し、より美味しく、より深いものへと進化させることでしょう。
「KUMI」トニックウォーターが、クラフトジン文化を愛する飲み手と作り手の双方に、苦味の持つ奥深さや味わいの多様性を届け、新たなクラフトジン体験を生み出します。

【製造プロセスの舞台裏】

筆者と今回お話いただいた中澤さん


KUMIトニックウォーターの製造工程、特に炭酸の充填と殺菌プロセスにおける圧力や温度の緻密な管理は、深海潜水艦の操作に似ています。潜水艦が深海(高圧環境)で安全に航行するには、内側と外側の圧力を慎重に調整しなければなりません。わずかな圧力差が生じれば船体が潰れるか破裂するように、炭酸飲料の缶も、加熱(内圧上昇)される際に外側から適切な圧力(外圧)をかけてバランスを取ることで、中身の品質を保ちつつ安全に殺菌を行えるのです。BITTER POPS COMPANYは、この見えない圧力のバランスをマスターし、最高の品質を追求しています。

【編集後記】

夏の積丹で行われたフレッシュボタニカルジン・マイスターの講座以来話すようになった中澤さん。お互いのSNSを見ながらたまに会話もするのですが、私の北海道愛がすごすぎるがゆえ、今回も色々とご案内いただきました。「いやー、とくちゃん(私のニックネーム)ならこっちの店がいいよー。」とか「ここのお店は是非一度食べてほしい」など、北海道のオススメを教えていただいています。今回初めてわかったのですが私と中澤さん、年齢が同じで身長も同じでした。実は同級生じゃん!となり尚更、親近感がわいているところです。
その反面、経営者としての顔を持つ中澤さんの姿を拝見する機会も今回はあり、経営者ならではの視点に関心しきりでした。アイデアややりたいことが豊富で研究熱心なその姿は見習わなければと思いながら帰京しました。

関連リンク

KUMIトニックウォーター公式ウェブサイト
https://bitterpops.co.jp/

KUMI トニックウォーター 公式Instagram
bitterpopscompany

『苦味』の魅力たっぷりの北海道発国産トニックウォーター「KUMI(クミ)」(GinYaMEDIA)
https://ginya-media.com/1522/

【GinYa】”苦みへのコダワリ”トニックウォーターBITTER POPS COMPANY工場見学【ジンヤ】(Youtube)
https://youtu.be/DKKmk5tXwqg?si=rZlvxu9QKenI7HrN

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