「僕ジン」プロジェクト-学生20人が作ったクラフトジン「Dear20s」リリース-

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この記事の著者

徳留 康矩

徳留 康矩

雪の日に旅先の蕎麦屋で飲んだクラフトジンに魅せられたウェブライター。
温泉好きも手伝って旅先で飲むその土地のお酒が大好き。
旅で見つけた美味しい食材を自宅でお酒のつまみにするのが得意技。

GinYaMEDIAをご覧のみなさん、こんにちは。ライターの徳留(@dome8686)です。
2026年3月1日、中目黒の「BEEP」にて、あるクラフトジンのリリースイベントが開かれました。そのジンの名前は「Dear20s」です。聞けば、全国から集まった20代の学生20人が企画・開発・デザイン・PR・瓶詰めまで、全工程に携わって作り上げたクラフトジンだと言います。
さらに、リリース前のプロトタイプを試飲する機会もいただきました。この記事では、イベントで語られた「このジンが生まれた物語」と、私が実際に感じたことをお伝えします。

「僕らのジンができるまで」プロジェクトの始まり

プロジェクトが動き出したのは、2025年夏のことです。中目黒のジントニック専門店Antonicを営む武田光太氏が「学生主体でクラフトジンを作ろう」と声をあげたところからはじまります。SNSやコネクションを通じて全国から学生たちが集まりましたが、応募者多数となったため、熱意を感じる書類からの選考を経て、最終的に20名がメンバーとして選ばれました。

プロジェクト名は「僕らのジンができるまで ‐学生20人の挑戦‐(通称:僕ジン)」と名付けられました。
学生たちが担ったのは、マネジメント、市場調査、ボタニカル選定、蒸留工程への参加、コピーライティング、デザイン、PRまで、文字通りの全工程です。

とはいえ、学生たちだけで全てを完結させたわけではありません。企画・運営面ではAntonicの武田光太氏が、デザインサポートには同じくAntonicの武田留以氏が、蒸留の技術指導には東京八王子蒸溜所の中澤氏がそれぞれ伴走しています。また、3月15日に予定されているカクテルイベントでは高田馬場のTHE HISAKAの小倉氏も携わるなど、各分野のプロたちが学生を全面的に支援する体制が整えられました。


ただ、武田氏はイベントの最後にこう振り返っています。

「学生たちがやりたいことを最後まで見守るサポーターとしての立場を貫きました」

プロたちが先頭に立って引っ張るのではなく、学生たちが決断して学生たちが動く。その姿勢が、このプロジェクトの根幹にある考え方です。

なぜジンを選んだのか?作り手と飲み手の距離が近いお酒

プロジェクトを進める上で、学生たちがまず取り組んだのは「ジンとはそもそも何か」を学ぶことでした。ジンは37.5度以上の蒸留酒で、ジュニパーベリーで香り付けされているのが定義の基本。ここまでは教科書的な知識です。

ただ、勉強を重ねる中で見えてきたのが、ジンならではの面白さでした。イベントではプロジェクトに参加したディレクターの那須登氏はこう語っています。

「ウイスキーやワインは熟成や経験値が味の評価に大きく関わりますが、ジンは『これを使っています』とボタニカルを直接伝えることができます。作り手と飲み手の距離が近い。そこに着目して勉強会を進めました」

桃を使っていると知れば、桃が好きな人はそれだけで手に取れる。知識がなくても、自分の好きな素材を基準に選べる。この「作り手と飲み手の距離の近さ」こそが、20代が20代に向けて届けるお酒としてジンを選んだ理由です。

武田氏がジントニック専門店 Antonicを中目黒に開いた理由も、実は同じところにあると言います。
「お酒の知識が全くない人でも、自分の知っている素材(ボタニカル)を基準に『選ぶこと』を楽しめるお酒がジンだったから」

コンセプトは「20代の始まりを祝う一杯」。メインボタニカルに桃を選んだ理由

「皆さんは初めて飲んだお酒、覚えていますか?」

イベントの冒頭、司会の企画部長である宮里祐希氏が会場に問いかけると、ビール、ジンライム、カシスオレンジ……と意見があがりました。

このジンのコンセプトは「20代の始まりを祝う一杯」。プロジェクトを進める中で学生同士が「初めて飲んだカクテルは?」と話し合ったとき、名前が挙がったのは「ファジーネーブル」「カシスオレンジ」など、居酒屋でもなじみ深いフルーティーなものばかり。甘くて飲みやすく、でもちゃんと酔える。そんな20代らしい親しみやすい味わいを、蒸留酒として形にすることを目指したのです。

そこからたどり着いたのが、メインボタニカルに桃、副材料にオレンジを用いるという方向性でした。

「20代が20代に向けて、同じ目線で届けるお酒を作りたい。お酒やバーをもっと好きになってもらえるような、素敵な一杯を目指して『Dear20s』と名付けました」

敷居が高いと感じられがちなバーの空気を、同世代の目線で開いていく。そのための一杯が「Dear20s」です。

最大の難関:桃の香りを蒸留で表現するという挑戦

コンセプトが決まれば、あとはそれを実現するだけ。そう思えますが、現実はそう単純ではありませんでした。このプロジェクトで最も困難を極めたのが、蒸留工程における「桃の香りの再現」です。

まず学生たちは、自分たちが目指すべき「桃感」の定義から始めました。杏仁(アンニン)のような甘い香りなのか、みずみずしくフルーティーな香りなのか、それとも果肉をかじったときのナチュラルな香りなのか。様々な桃の香料を比較しながら、目標を言語化していきました。

次に立ちはだかったのが素材の問題です。開発時期が桃のシーズンと重ならなかったため、生の果実が手に入りません。桃の花を煮出す、ドライフルーツの桃を使う、桃の葉を試すなど、代替素材を検討しましたが、いずれも香りの強度や質感で満足のいくものが得られなかったと言います。

そして最大の壁として立ちはだかったのが、蒸留という工程そのものの持つ宿命でした。八王子蒸溜所の中澤氏はこの問題をこう説明してくれました。

「桃の香りは熱に非常に弱く、蒸留機の加熱工程を通すと、生の実をかじった時のフレッシュな香りは消えてしまいます。リンゴがアップルパイになるような変化で、加熱によってプラム(すもも)のような香りに変質してしまうんです。」

みずみずしい生の香りが、熱によって全く別のキャラクターに変わってしまう。これが蒸留という技術の難しさです。

「学生たちの香料を使わずに『桃の味をしっかり出したい』という熱意に押されました(笑)。何度も一緒に試作を重ねました」(中澤氏)

突破口となったのは、いくつかの技術的工夫を組み合わせることでした。まず、縁あって山梨市から取り寄せることができた冷凍の桃ピューレを本蒸留の直前に投入する方法。加熱による変質を最小限に抑えながら、厚みのある桃の香りを引き出すためです。
さらに、通常は蒸留後の原酒を水で割ってアルコール度数を調整するところを、ここではただの水ではなく「桃のジュースを蒸留して作った桃の蒸留水」を加えました。これによって、飲んだ瞬間に最初に感じるトップノートに桃の華やかさを閉じ込めることに成功します。加えて、蒸留で失われがちなフレッシュ感を取り戻すため、生のレモンピール(皮)を少量加えることで、桃のみずみずしさを擬似的に表現するひと工夫も施されました。

試作を含む3種類を実際に飲んで感じたこと

イベントの中で試作を含む3種類のジンを試飲する機会をいただきました。

初期タイプ(1番目)は、比較的ドライジンの要素が強くキレがあります。伝統的なロンドンドライジンの骨格がしっかり感じられ、その上に桃の香りが広がる構造。悪くはないのですが、桃という素材の存在感がまだ薄い印象です。ジン好きには響くかもしれませんが、「桃のジン」として手に取った人には少し物足りなさがあるかもしれません。

2番目のタイプでは、ボタニカルの調整の痕跡がはっきり見えます。植物的な、葉っぱのようなグリーンノートが顔を出すのです。素材を足したことで複雑さは増したものの、目指す「桃感」とはまたズレが生じている印象でした。香りの方向性は豊かになっているのに、なぜか桃から遠ざかっていくような不思議な感覚があります。これこそが蒸留という工程の難しさを象徴していると感じました。

そして3番目の完成形。桃の甘やかさが鼻の奥へとすーっと抜けていくのがはっきりとわかりました。ドライジンの骨格は残りつつ、桃のふくよかな香りがトップノートに乗り、飲み込んだ後に甘やかな余韻が続きます。「あ、これだ。飲みやすい。わかりやすい」と思わせるバランスが、ここで完成していました。

この3本を順番に飲む体験だけで、学生たちと中澤氏がどれだけの試作と修正を繰り返してきたかが伝わってきます。眼の前の液体が、プロセスを語ってくれます。

ボトルデザインに込められた「ボトルメール」という詩

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ボトルの裏には20人の20代からのお手紙が


ジンの中身が決まれば、次はどう見せるか。ラベルデザインのお話をしてくれたのは、デザインチームの星谷夏音氏。東京八王子蒸溜所の既存ブランドを手がけるデザイナーさんも講師として指導にあたり、武田留以氏がブラッシュアップのサポートに入りました。
お酒の知識がほぼゼロの状態からスタートした彼女たちが辿り着いたキーワードは「手紙」でした。
そのインスピレーションの源泉となったのが、蒸留酒の持つ特性です。蒸留酒は20年、30年経っても劣化しない。むしろ保存状態によっては価値を増すこともある。この「時を超える」という性質を、海を越えて届く「ボトルメール(メッセージ・イン・ア・ボトル)」のメタファーに重ねたのです。

20代の今この瞬間の気持ちを瓶に封じ込めて、未来の自分や誰かへ届ける。かつて20代だった大人たちへ、そしてこれから20代を迎える若者たちへ「Dear20s(20代の君へ)」というタイトルが、ボトルメールという概念と美しく響き合います。

完成したボトルは、手に取った瞬間に「手紙」を感じさせる工夫が随所に凝らされています。紙質の選定にもこだわり、古い手紙のような温かみとどこか懐かしさを感じさせる手触りが追求されました。検討段階では、シールを貼ってメッセージを書き込めるようにする案も出たといいます。「贈る側」と「受け取る側」の対話をデザインの軸に据えていたことがよく伝わってきます。

ただしデザイン制作は、美しさだけを追えばいいわけではありませんでした。酒税法に基づいた表記のポイント数、ボタニカルの記載ルール、非常に細かい法的審査の部分を一つひとつクリアする必要があったのです。ボタニカルを言葉で説明するのか、イラストで見せるのか。学生ならではの感性と、プロが求める正確性の間で試行錯誤を繰り返した末に、最終的な形が生まれました。

「学生たちがこの『良い悩み(デザインの制約)』を乗り越えたことで、単なる学生作品ではない、マーケットで戦える本物のプロダクトになった」(武田留以氏)

「20代からの手紙」というストーリーが、個人的に一番刺さった

個人的に、このイベントで最も心に残ったのがこのボトルメールのストーリーでした。

かつて20歳だった私も、あれからすでに20数年が経ちます。あの頃の感覚は、気づかないうちにすっかり遠くなっていました。でも、このジンを試飲した時に甘いけど酔えるお酒をみんなで飲んでいたあの頃が、ふと浮かんできたのです。カシスオレンジやファジーネーブルで少し赤くなっていた夜のことを。

人生のレイヤーが重なるごとに、見えなくなっていくものがあります。あの頃の自分が感じていた何かを、すっかり忘れてしまっているそんな感覚に陥ることありませんか?このジンのボトルは、そういうものを呼び覚ましてくれるような感覚がありました。

あの頃の自分が今の自分を見たら、なんと言うだろう。そんなことを考えながら飲む、40代にも十分に刺さるジンです。20代に向けて作られたはずなのに、かつて20代だった人間の記憶を揺さぶってくる。それこそがこのプロダクトの最も豊かな側面かもしれないと感じました。

450本、全て学生の手で詰めた

この日イベントに参加した学生メンバーと東京八王子蒸溜所の中澤さん、Antonicの武田さん

完成した「Dear20s」は450本の限定販売。瓶詰めからラベリングまで、全て学生たちの手で行われました。
作業に参加していた営業部長の大塚恒輝氏が、特に苦労したと語っていたのは、「キャップ部分のフィルムを熱で密着させる工程」です。蒸留所の方なら2秒で終わる作業に、最初は何度も失敗を繰り返したといいます。ですが、回数を重ねるうちに自分なりのコツをつかんでいきました。大塚氏はこう語ります。

「一つひとつの作業に精一杯取り組んだ分、ボトル1本1本に学生の『味』がこもっています」

ボトルを眺めると、わずかにラベルの貼り具合に個性があったりします。これは機械で均一に製造された商品ではない、20人の学生が自分たちの手で作り上げた、450本だけの特別なプロダクトです。

主催者・武田光太氏が語る、このプロジェクトの本当の意味

イベントの締めくくりに、武田光太氏が総括を語りました。学生たちのプレゼンテーション能力の高さへの驚きと称賛を述べながら、こう続けます。(最近の学生さん達のプレゼンはほんとにクオリティが高いのです。)

「今回のプロジェクトで最も大切にしたのは、未来の飲み手に会うことでした」

ジンは今、世界中で進化しています。かつてはロンドンを中心に発展したお酒ですが、進化した蒸留技術によって今では世界中のどこでも作れるようになりました。武田氏はジンを「ハーブ、フルーツ、スパイスなど、あらゆるものの香りを抽出して移すことができる液体」と定義します。素材の自由度が高いからこそ、知識がなくても「選ぶ楽しさ」が生まれる。

「知識がある人だけでなく、学生たちの友人など『呼ばれたから来たけれど、ジンなんて飲んだことがない』という層に、このお酒がどう届くのかを重視していました」

「Dear20s」が、これからの若い世代にとって「人生で最初に飲む蒸留酒」になってほしい。武田氏の願いはシンプルで、とても温かいものでした。

イベント情報

2026年3月15日(日)、高田馬場「 THE HISAKA(@the.hisaka)」にて、「Dear20s」を使ったスペシャルカクテルイベントが予定されています。
目玉は現役学生バーテンダーがつくる「Dear20s」のオリジナルカクテルです。20代からの手紙とともに一杯のカクテルを楽しんでみてはどうでしょうか?カクテルファンには見逃せない夜になりそうですね。

さいごに

450本という数量は、決して多くはありません。でも、この1本が誰かの「人生で最初の蒸留酒」になる可能性があります。

学生20人が約10ヶ月をかけて試行錯誤し、プロたちがその背中を押して完成させた「Dear20s」は、ただのクラフトジンではありません。20代から20代へ届ける手紙であり、かつて20代だった人の記憶を静かに呼び覚ます一杯でもあるのです。

ジンのことをよく知らなくても、バーに行ったことがなくても大丈夫。「桃が好きだから」それだけで手に取っていいと思います。このジンは最初からそのために作られています。

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