こんにちは。GinYamediaの徳留(@dome8686)です。およそ10ヶ月にわたって開催されたフレッシュボタニカルジン・マイスター講座も、今回の2月の現地研修でいよいよ最終回。冬の積丹の景色、卒業ボトルの制作、参加者との交流など、今回も盛りだくさんの2泊3日となった講習の内容をレポートします。

この記事は夏編からの続きです。最初から読みたいという方は下記の記事からどうぞ。
毎月1回オンラインで開催されていた講座ですが、冬になると同じ講座を受講した仲間としてぐっと距離が縮まった印象です。現地で合流した瞬間から、夏以来の再会であることを感じさせないくらい自然に話せるようになっていました。
参考までに、私たちが受講した10月〜1月の後期の内容は以下のとおりです。
- 10月:積丹で栽培するハーブの種類と効能を学ぶ
積丹で栽培するハーブの種類と効能、ハーブの収穫タイミングと原料化へのこだわり ハーブのプロ・大澄かほる氏が試してみたいハーブとは? - 11月:ボタニカルスピリッツ製法と蒸溜による香り抽出の原理を学ぶ
アルコール蒸溜と香り抽出の原理 常圧蒸溜と減圧蒸溜の違いと蒸溜特性 - 12月:ボタニカルスピリッツのブレンドのポイントを学ぶ
ジンの香り・味・余韻をバランスさせるブレンドの設計手法とは? - 1月:卒業ボトル向けボタニカル総選挙
シングルボタニカルスピリッツから香り・味・余韻を加味した蒸溜液を選出し、ブレンド比率を決定

今回の現地講習では、自分自身で配合したオリジナルの卒業ボトルを制作します。そのために必要な知識を、毎月積み上げてきました。少ない種類のシングルボタニカルスピリッツの配合やテーマ決め、テイスティングノートの書き方からはじまり、徐々にボタニカルスピリッツの種類を増やしていきます。中身は「お酒」ですから、試すたびに酔いが回るのはご愛嬌。それでも、オンライン講座を通じて自分なりの答えを持って現地に臨んだ受講者が多かった印象です。
講座1日目
世界のノンアルコールトレンドと日本のお水の価値を考える

かつて旧福井家がニシン漁に使用していた石蔵を改修し、クラブハウスとして研修やコンサートにも利用されている海森スタジオ。今回ここで開催されたのが、HAKKO GINGER(https://hakkoginger.theshop.jp/about)の開発・販売も手がける寿司職人、デリシャスフロム北海道の前田伸一氏(@hakkoginger)による講座です。ニセコでお寿司屋さんを営まれているということで、昨今のインバウンドブームを通じて「日本の価値」について深く考えていらっしゃる印象でした。

日本では「ノンアルコールドリンク」の選択肢が少なく、お店に行っても数種類程度というのが現状です。一方、海外ではジンジャービアやスパークリングティー、コンブチャ(茶を発酵させたもの。酵母菌・酢酸菌・乳酸菌などのコロニーにカフェインと糖質を与えて作る)など、多彩な選択肢が広がっているそうです。
評価されるノンアルコールドリンクの条件や、「美味しい」を科学的に言語化した内容など、興味深い話題が盛りだくさんでした。その特性を活かしたノンアルコールジンやホットジンのレシピも紹介していただき、料理人ならではのアプローチにはとても刺激を受けました。
また、日本は世界でも有数の軟水国ですが、軟水とは「さまざまな味が入り込む余白がある水」だというお話が印象的でした。当たり前のように飲んでいる日本の軟水こそ、市場価値があるのかもしれません。
個人的に、温泉ソムリエとしては成分の溶け込みやすいお湯にとても興味があります。北海道の温泉はベースとなる水に雪解け水が多いからか、お湯が柔らかい印象。柔らかくて飲みやすくて、好きです。
制作に3日! 手作りの雪壁の中で楽しむBBQ

夏にみんなで森から摘んできたボタニカルを加工した作業場は、すっかり雪に覆われて別の景色に様変わりしていました。

今回の夕食会場はこちら、ということで案内された先には、高く積もった雪を掘り進めて整備されたBBQ会場がありました。聞けば、積丹スピリットのみなさんが3日がかりで作り上げたとのこと。雪の中でのBBQをずっとやってみたかった私にとって、一番楽しみにしていた時間です。

雪壁に冷やされた積丹スピリットのジン「火の帆」やビールは、そこにあるだけで絵になります。外は寒く、ジンも雪の中で冷えているので氷は不要。むしろこの環境で氷を加えて冷やしすぎると、香りが出てこなくなりそうです。

この日のメニューは、しおかぜ羊の藁焼き、苫小牧産鹿肉のラザニア、道産各地の冬野菜の旨味ブイヨンスープ(辛)、羊のピッツァ/マルゲリータ。冷えた空気の中で頬張る焼きたての肉やピザの美味しさは、言葉にならないほどです。

テントサウナです。しっかり温まっているので、出た直後は裸足で雪の中を歩いても寒くないのです。


体が冷えてきたらホットジンを飲むことだってできます。じんわりと体が温まっていく感じが心地よいです。

気づけば満点の星空でした。飲んだり食べたりしていると、あっというまに時間がすぎていきます。途中極寒ブルースを聴くこともできました。この写真は撤収するところ。
時間も記憶も溶けていくアブサン会

宿に戻ってからは、積丹スピリットが新たに発売したアブサンを飲みながら夜を楽しみました。アブサンは精油成分によって白濁するのですが、加水して時間をおいたときに生まれる白濁のグラデーションの美しさをつまみに飲んでいた方もいて、大いに盛り上がりました。みなさんほどよく酔って、心地よく夢の中へ。
講座2日目
樹木の香りをブレンドして自分だけの「森の香水」を作ろう

北海道立林業試験場 森林環境部長の脇田陽一氏による香りの講座です。北海道に自生する樹木や、北海道で栽培に適した植物の研究をされているそうです。
ちなみに「樹木」の定義は、年輪を形成し、冬を越して毎年成長し続けるもの。じつは「ラベンダー」も樹木に分類されます。
今回は、一般的なエッセンシャルオイル(精油)の抽出過程で副産物として得られる「ハイドロゾル(芳香蒸留水)」を使って、自分だけのお気に入りの香水を作るワークショップです。

普段「森の香り」とひとくくりにされがちな香りですが、実は樹種によってまったく異なることを体験していきます。樹木の香り当てクイズに挑戦したのですが、これが全然当たらない。どれも異なる香りとわかるものの、それが何の樹木なのかを当てるには経験値が必要です。
香りの機能性という観点では、例えば鎮静・リラックスにはラベンダーやヒバ、幸福感にはバラ、認知症予防にはラベンダーやローズマリーというように、植物によってそれぞれ異なる作用があります。
各自で「行ってみたい森」や「リラックスできる森」をイメージしながら、数滴ずつ配合を変えて自分だけの「森の香り」をデザインします。完成したオリジナルの香りはアトマイザーに入れてお土産として持ち帰ることができます。

積丹スピリットでも使用されているヤチヤナギ(エゾヤマモモ)は、香りを嗅ぐと「深睡眠の割合が増える」こと、「入眠までの時間が短縮される」ことが科学的に証明されているとのこと。この素材を使わない手はない、ということで、私はヤチヤナギ+オオバクロモジ+ラベンダーの組み合わせにしてみました。
世界で一つ! オリジナルブレンドのジン、卒業ボトルを作成

午後からは、この講座で学んだことを活かして、オリジナルブレンドのジンを作成していきます。オンライン講座ではまず5種類のブレンドからはじまり、翌月にシングルスピリッツが5種類追加されましたが、今回は写真のように20種類近くのボタニカルスピリッツから選んで作成します。
ここで、ボトル制作にあたってのルールが発表されました。
夏の現地講習で作成したスピリッツ(通称:1st Generation)を総量の20%使用すること。

ノラニンジンやコシアブラ、キハダの皮などが入った講習オリジナルブレンドのスピリッツです。良くも悪くも個性が強いため、ブレンドに使いづらいスピリッツだと個人的には考えていました。ところが、この制約が一つ固定されることで、むしろ設計がしやすくなるという発見がありました。
ブレンドの手順はこちら。
- どんなイメージのジンを作りたいかを決める
- 1st Generationに加えるメインのスピリッツを1つ選ぶ(トップ・ミドル・ベースのどの層に届かせたいかを意識する)
- イメージに沿うスピリッツを書き出す
- リストアップしたスピリッツの味を確認しながら使う/使わないを判断する
私が座った席の近くには、ジンの作り手、バーテンダー、料理人、トニックウォーター工場のメンバーなど、飲食に携わる方が多く集まっていました。それぞれのアプローチで手際よくブレンドを進めていく様子は、頭の中にすでに設計図が出来上がっていて、それを確認しながら微調整しているような印象でした。

「10mlと500mlでは印象が変わってくるんですよ」という声や、「スポイト1滴はXmlだから、数滴で微調整したよ」といった声があちこちから聞こえてきます。

私は自宅で実験してきた配合をベースに、そこから微調整していくスタイルで臨みました。比率を少し変えるだけで印象がガラッと変わるのが、ブレンドの面白いところです。

世界に一つだけのオリジナルボトルが完成しました。今回、500mlの完成ボトルとは別に、50mlの小瓶を審査用として事務局に提出しました。積丹ガストロノミーのメンバーやバーテンダーの鹿山さんら審査員の方々が試飲し、見事選ばれた1名のジンは100本ボトリングされて販売されるという、すごい企画です。みなさん謙遜しながらも、どこかで1位を狙っている。それくらい真剣な空間になっていました。

今回優勝したのは、札幌でトニックウォーターを手がける中澤さん。苦味の研究を日常的にされているだけあって、苦味の絶妙なコントロールが光る素晴らしいジンでした。
この記事を執筆時点では本数限定ですが下記サイトで販売されており、みなさんも講座の味を確かめることができます。
通販サイト ツクツク内
Shakotan Bitter
https://ec.tsuku2.jp/items/37282400612300-0001
枝でステア!? 世界のバーテンダー、鹿山博康氏によるカクテルメソッド

BAR Ben Fiddich(@benfiddich_tokyo)の鹿山博康氏によるカクテルの講座です。最近では世界各地を旅して食材やカクテルの研究をされているそうで、その話を聞かせていただきました。積丹スピリットのKIBOUとコーヒーを使ったカクテルを作っていただいたのですが、ステアに使っていたのはバースプーンではなく「枝」!
鹿山氏曰く、
「3年くらい前から『枝』でステアして遊ぶようになって。これはカンボジアに行ったときに持ち帰った『カシア(シナモンの一種)』の枝です。折ると良い香りがします。日本で一番オーセンティックな調理器具を使っています、って言いたいがために枝で回し始めたんですけど、だんだん楽しくなって。今日は何の枝にしようかな、って洋服を着替えるような感覚ですね。慣れてくると、枝が曲がっていてもどこを軸にして回せばいいか、持った瞬間にわかるようになるんです。これ、結構難易度高いですよ(笑)。」
とのこと。マイクを持ちながら話しつつも、美しく回る木の枝に見とれているうちにカクテルが完成。味はとても美味しく、どこか遊び心があふれる一杯でした。

夕食の際に提供されたカクテルにも感動しました。積丹の植物が散りばめられていて、香り高く、それでいてどこかに嫌味がない。ドライラベンダーの香りがすっかり好きになりました。
講座3日目

講座3日目は、これまでの講習を通じて感じたことや、ジンの未来についてのディスカッションです。10ヶ月の講座の中で印象に残った研修、そして積丹の魅力について話し合いました。海と森林が共存しているからこその食事、水、夕日など、参加者それぞれの視点が語られました。
最後に、積丹スピリットオフィシャルアンバサダーの称号と、フレッシュボタニカルジン・マイスター講座の認定証、記念品をいただき、10ヶ月の講座が完了です。

食事と積丹

講座のテーマと連動した、積丹の土地を感じられる食事が提供されました。積丹の海産物を使ったお寿司やニシンの切り込み、そい、ひらめ、あん肝のお煮付けなど、冬の積丹を存分に堪能しました。

前回、朝ごはんのクオリティにとても感動した私ですが、今回も大満足。講座のメインの会場となった「なごみの宿 いい田」さんは、この土地で網元が建てた築100年を超える建物をリニューアルしたお宿です。こちらで提供された新鮮な野菜や魚介は、ついつい欲張ってしまいます。この日はアワビ入りの炊き込みご飯まで提供されました。
さいごに:お酒と地域をとおした参加者同士のコミュニケーション

およそ10ヶ月にわたり「ジンと積丹」について学んだ仲間たちです。世代も背景も異なる中で「ジン」というキーワードで繋がった縁。食後にコーヒーやお茶を振る舞ってくれるメンバーもいて、参加者同士のコミュニケーションが自然と深まっていきます。
夜になれば参加者同士で飲み会を開くメンバーも。この年齢になって幅広い世代と合宿のように過ごしながら飲むお酒の美味しさは、格別です。

様々なバックグラウンドを持つ方が参加されている中で、この講座には作り手さんも複数参加されていました。作り手同士が飲みながら、作り手ならではのトークで盛り上がっている光景が印象的でした。黙々とお酒に向き合う人たちにとっても、この講座はコミュニケーションの場になっているのかもしれません。

北海道と東京はおよそ1,000km離れています。物理的な距離はあるものの、一つのお酒を通じて土地の風景が浮かび、お酒を作っている人たちの顔が浮かび、そしてこの講座を受けたみんなの顔が浮かびます。場所が違えど、共通の景色をお酒を通じて思い描けるようになったこと、それは参加者みんなの財産になったのではないかと思います。知識はもちろん、それ以上に参加者のみなさんとのコミュニケーションこそ、この講座で得た一番の財産です。






